はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 271 [迷子のヒナ]

館内を巡回していたジェームズは、その瞬間、空気が変わったのに気づいた。
一瞬なにが起こったのか分からなかったが、五感すべてが危険信号を発していた。神経を尖らせ、急ぎ足で玄関広間にいるはずのハリーの元へ向かう。彼ならなにが起こったのか必ず知っている。客同士のいざこざが起きたのか、それとも従業員とのトラブルか、なににせよあまりいいことではないのは確かだ。

玄関広間へと続く階段の途中で、すでに振り返ってこちらを見上げているハリーに向かって忙しなく尋ねた。

「ハリー、なにかあったのか?」

ハリーは眉をあげた。「いいえ、どうしてですか?」

最後の一段を飛ぶようにしておりると、ざっと周囲を見回した。随分ざわついている。ジェームズは顔を顰めた。「いいえ?そんなはずは――」

ハリーはジェームズに最後まで言わせなかった。

「ああ、クロフト卿がお見えになりましたよ。おそらく向こうの屋敷から地下を通って来られたのでしょう。背後から声を掛けられて驚きました」

驚きましたと言うわりに、驚いたところなど全く見せないハリー。ほんの少し前までは、ジェームズはハリーよりも感情を隠すのが上手かった。それがどうだ?

「パーシヴァルが?」

驚きと失望がジェームズを襲った。その次に訪れた感情は怒りだった。あまりに場違いな感情にジェームズはたじろぎ、どこか面白がるような目で見ているハリーから視線を逸らした。

パーシヴァルがどこで何をしようが、僕には関係のない事だ。そう思っても、まったく気は静まらなかった。今すぐにあの口先だけの淫乱男を捕まえて、首に縄でも括り付けて屋敷まで引きずって帰ってやる。

そうしてはいけない理由がどこにある?パーシヴァルは、まだ、ここの会員だが、すでに退会の申し出をしていて、経営者であるジャスティンと僕が了承している。二度とここへは足を運ばないと言ったのはパーシヴァルで、理由がどうあれ約束を反故にするなど許されない。

「ここへ来られてすぐにラウンジへ入られましたが、わずかなうちにクラム卿とダドリー卿に伴われて、最上階へ向かわれました」

最上階だと?

閉鎖予定の最上階の寝室は、いわゆる覗き部屋で、趣向を凝らした行為を好きな時に好きなだけ、観て楽しむことが出来る。前回、パーシヴァルはその部屋で同時に二人の男を受け入れ、観衆の興奮を最高潮まで盛り上げた。誰もがパーシヴァルの恍惚とした表情に魅了された。ジェームズも例外ではなかった。

「クラムとダドリーはパーシヴァルを見せものにする気か?」目の前が真っ赤に染まった。ブライスと対峙した時と同等の怒りがジェームズを襲う。

「ジェームズ、落ち着くんだ」

ハリーの太くいやに落ち着いた声にハッとした。

「落ち着いている。ただ、彼は望んでいない」深呼吸をし、何度も目をしばたたいたが、怒りは一向に収まらない。

「嫌がってはいなかった。二人に両脇を固められてはいたが……ただ、ちょっとぼんやりはしていたようだ」ハリーが言った。

「あいつはまともにものを考えられない男だ」だからジャスティンの怒りを買うかもしれないのに、ヒナと仲良く風呂に入ったりするのだ。あの場に踏み込んだのが僕でよかったと、あとで死ぬほど思い知らせてやる。

「ジェームズ!」

ジェームズはハリーの叱責など無視して、階段を駆け上がった。パーシヴァルが喜んで二人を受け入れようが知った事か。

アレは僕のものだ。そうなりたいと、アレが言った。

つづく


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迷子のヒナ 272 [迷子のヒナ]

我を失う。

いまのジェームズを形容するに相応しい言葉は他にないだろう。

ジャスティンは廊下の向こう、いまにも角を曲がり姿を消そうとしているジェームズに向かって叫んだ。ひとまず名前を。

「ジェームズ!」

一度目、軽く声を掛けたが無視されたため、二度目は否が応でも声を張り上げなければならなかった。

ジェームズがぴたりと足を止め、素早く振りかえった。

その目に浮かんだ微かな苛立ちを、ジャスティンは見逃さなかった。

「何か問題か?」問題が起きているのは承知で、ひとまず尋ねた。

「いや、問題などない。少し急いでいる。何もないならもういいか?」廊下の端からジェームズは言った。こちらへ歩み寄ろうという気はまったくないらしい。

「急いでどこへ行く?」

「ただの見回りだ」ジェームズは腹立たしそうに言った。

「そうか。それはあとにしてくれ。少し話がある」

「話?それこそあとに出来ないのか?」冗談はよしてくれと言わんばかりに、ジェームズが異を唱える。

「出来ない。いますぐにここに来い」ジャスティンはぴしゃりと言った。

ジェームズはいま舌打ちをしたに違いない。忍耐力を試す気はないが、いつまでも誤魔化すようなら、今すぐにけりをつけてもいいんだが。
我が家の居候を追い出すことなど、実のところ、容易い。しばらくはヒナがギャーギャーわめくだろうが、この腕に抱いてしまえば、それもなんとかなる。

ジェームズが足を引きずるようにして、こちらへやって来た。これみよがしの大きな溜息を吐き、太ももを指先でトントンと叩く。

ジェームズにしては珍しい仕草だと、ジャスティンは思った。

「ジャスティン――」ジェームズが懇願するように言う。

「いいから、中へ入れ」ジャスティンは執務室のドアを開け、ジェームズを中へ促した。

なかなか動こうとしない――もしくは今にも踵を返して、階上へ向かいそうな――ジェームズに鋭い一瞥を向け、もっと強い口調で命じることも出来るのだという事を伝えた。

ジャスティンはジェームズに背を向け部屋へ入った。目の前にはしょんぼりと肩を落とし、椅子に座るパーシヴァルがいる。

ジャスティンはジェームズが姿を現すほんの数分前、クラムとダドリーに抱えられるようにして階上へ向かうパーシヴァルを発見していた。

その表情から、パーシヴァルがその気でないのは明らかで、館へ足を踏み入れたことを後悔しているように見えた。

ジェームズに相手にされないパーシヴァルが自棄をおこしたのだと、ジャスティンはピンときた。

オーナーの権限をもって、パーシヴァルを取り巻きから引き離すと、とりあえずはこっぴどく怒鳴りつけ執務室へと押し込んだ、というわけだ。

さて、ジェームズはどんな反応をみせるのか?

ジャスティンはニヤニヤ笑いが止まらなかった。

つづく


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迷子のヒナ 273 [迷子のヒナ]

ヒナが告げ口でもしたのかと疑いたくなるほど、パーシヴァルはあっさりと捕まってしまった。

入り組んだ館内は、時として迷路のようでもあるが、避けるべき場所は心得ている。
だとしたら、やはり間違いを起こしたのはクラムとダドリーということになる。が、結果それでよかったのだ。

ラウンジで友人たちの熱い歓迎についのぼせあがり、その場でキスを許してしまった。ごく軽い、ほんの少しだけ舌を絡み合わせた、挨拶程度のキスだが、飢えた身体に火がつくのは避けようがなかった。当然それに気をよくしたわが友は、僕の身体を味わおうと、よりによって最上階へ向かおうとした。

あの部屋にはあまりいい思い出がないし――もちろん二人に身体を許す気もなかったから、当然のように抵抗したのだが、これまで僕を好き勝手に抱いてきた彼らが簡単に引き下がるはずもなかった。

だが、気付けば目の前にジャスティンがいて、気付けば恐ろしく事務的な部屋へ閉じ込められ、そして気付けば開いたドアの向こうからジェームズの声が聞こえていた。

パーシヴァルは黒い革張りの椅子の肘掛けの部分をぎゅっと握った。ジェームズはジャスティンの言うことなど聞こうともせず、まるで僕を避けるように遠のいていこうとしている。急いでどこへ行くのか聞きたかったが、なにせ僕は口を閉じているようにきつく言い渡されている。言う通りにしなければ、ヒナのことにかかわらず、今すぐに追い出してやると脅されさえした。

なにより効き目のある脅し文句だった。

ああ、ジェームズ。僕はここにいる。でもいまは会いたくない。夢から醒めたように――もしくは酔いが醒めたのか――ここにいることが恥ずかしくて仕方がない。

パーシヴァルは手の甲で口元を拭った。たとえキスだけでも、ジェームズを裏切ったことにかわりはない。もちろん、ジェームズは気にもしないだろうが、この僕が気にする。

ジャスティンが不遜な笑みを浮かべ中へ入って来た。嫌味な男だ。助けられたとはいえ、いいように操られるのはごめんだ。

「ここで何をしているんですか?」驚きに満ちた声がジャスティンの背後から聞こえ、パーシヴァルはヒッと首を絞められでもしたかのような声を漏らした。

黒一色の悪魔みたいの男の後ろには、金色の神々しいまでの光りを放つジェームズが控えていた。

いつ見ても美しい男だ。青い瞳に軽蔑の色さえなければ完璧なのだが。

パーシヴァルはぎこちなく微笑んだ。「やあ、ジェームズ」

つづく


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迷子のヒナ 274 [迷子のヒナ]

「ジェームズ、君という男がわからないよ。あんなふうに助けに来てくれたかと思えば――ほら、ブライスに連れ去られた時のことだけどさ――戻って来てからは、まるで上着に付いた糸屑のように払い除けるし、今夜は……その……ジャスティンが言うには、血相を変えて僕を探していたとか……いないとか――」

ジェームズは薄暗い地下通路をパーシヴァルを追い立てるようにして進んでいたが、耳の痛い事を口にされ、思わず足を止めた。

まったく。ジャスティンは余計なことを言ってくれたものだ。

僕は血相など変えていなかったし、パーシヴァルを探してもいなかった。
ただ、嘘つき男を捕まえに行っただけだ。

「ジェームズ、止まるなよ」先を行っていたパーシヴァルが慌てて駆け戻って来た。

「いちいち僕の名を呼ぶのはやめてもらいたいですね」ジェームズは暗がりを怖がる子供のように縋り付くパーシヴァルを押し退け、憮然と言った。

「なぜ?」パーシヴァルが不思議そうに問い、再びしがみついた。

「なぜ?」なぜならば、パーシヴァルの声はいちいち五感を擽る。そんな声で名を呼ばれたらどうなると思う?耳から入り、脳を痺れさせてから、身体中に甘い疼きをもたらす。頑なに拒絶しているのに、まったくの無意味。拒絶する理由も分からなくなるほどだ。

「なあ、ジェームズ。もう怒るのはやめにしないか?僕が悪かったと認めるから」反省しているのかしていないのか、パーシヴァルは探るようにジェームズを見つめた。

鼻を突き合わせ、いまにも唇が触れてしまいそうなこの状況を、ジェームズは意識すまいと努めた。だが、思ったよりも力が入ってしまい……。

「もちろんだ!君が悪いに決まっている」これでは恋人に浮気でもされたかのようだ。パーシヴァルは断じて恋人ではないし、これからもそのつもりはない。

「そ、そんなに責めるように言うことはないだろう?ジェームズがかまってくれないから、こんなことになったんだ。部屋でひとりでじっとしているなんて、ヒナにだってできないのに、僕に出来るはずはないだろう」

「なにを子供じみた事を言っているんですか?」呆れて思わず笑ってしまった。

笑い声に反響してか、壁に掛かった蝋燭の炎が揺れ、パーシヴァルの唇に胸のざわつくような陰影をつくった。

「ヒナと同じで甘ったれなんだ。子供っぽいって言われても、いまさら直せない」パーシヴァルが開き直って言う。

「直せ、などとは言っていません。ただ、あまり困らせるような事はしないでもらいたいですね。今夜のように男漁りに出掛けるなど、今後は絶対許さない――」

「じゃあ、つまり……今夜のことは許してくれるんだな。例えば、キスをするくらいの仲には戻れるのかな?」

「キスが欲しかったのですか?」

馬鹿馬鹿しい質問だが、パーシヴァルはそうは思わなかったようだ。
ジェームズの胸に軽く握ったこぶしを叩きつけ、「欲しいさ!欲しいに決まっている!」と声を張り上げた。

あまりに無邪気に興奮して言うものだから、ジェームズはキスを与えずにはいられなかった。

もちろん、それ以上与える気はなかったが。

つづく


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迷子のヒナ 275 [迷子のヒナ]

こんなご褒美をくれるなんて、もしかするとこれは夢?いいや、おそらく……お仕置きだ。だってこんなキスをされたら、キスだけで終われない。終われるはずがない。けど、ジェームズの事だ、きっとキスが終わった途端突き飛ばして、はい終わり!なんてこともあり得る。

でもいい。

最低でも一週間は――場合によってはもっと――このキスを思い出して自分を慰められるのだから。

そのくらいジェームズのキスには価値がある。

ああ、ジェームズの舌が僕の唇を割って入って来た。

パーシヴァルはジェームズのいいように首を傾げ、細くしなやかな身体に腕を回した。想像していた通り、驚くほど二人の身体はぴたりと合わさった。僕のものだ。これまでにないほど強い所有欲が湧きあがり、受け身でいる事など出来なくなった。ジェームズの首に手をかけ、荒々しくキスを返す。あまりに綺麗に整えられた金髪が恨めしくて、細く長い指を差し入れ、くしゃくしゃに掻き乱してやった。

「そこまでしていいとは言っていませんよ」ジェームズは唇を離し、口元で囁くように言い、パーシヴァルのやや暗めの金色の髪を同じように掻き乱した。

髪を乱されただけで、衣服を剥ぎ取られたかのような感覚に陥った。いまだに首元さえ緩めていないのが不思議なほどだ。

ジェームズの唇が顎の先をかすめる。パーシヴァルは身体を震わせながら頭を仰け反らせ、ゆっくりと頬を伝いあがる唇に意識を集中させた。そうしなければ埃っぽい石の床にジェームズを押し倒して、いまいましい唇を貪り尽くしてしまいそうだった。

柔らかな耳朶に歯を立てられ、喘ぎ声が漏れた。足元が揺れ、立っているのもやっとだ。

「ヒナの石鹸を使いましたか?」

ヒナの石鹸?ああ、使ったとも!
こんなときでも冷静なジェームズが腹立たしい。まったく。ジェームズだってあの石鹸を使っているだろうに。けど、ジェームズからはヒナの石鹸の香りはしない。もっとみずみずしい香りがする。レモンやオレンジのようなさわやかな香り。

「気に入らないのか?」首を回し、ジェームズの耳元で尋ねる。

「そうですね」と、そっけないが、いつもよりは甘い声が返ってきた。

「今夜は我慢しろ」そう言って、ジェームズの後頭部を掴んで唇を引き寄せた。今しか味わえない唇を、思う存分堪能する。
おそらく地上へ出てしまえば、また糸屑のように扱われるのがおちだ。立ったままでもいい。この場で奪って欲しいけど、初めての時はもっと厳かなものにしたい。

だって、ジェームズは僕の初恋の人だから。

つづく


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迷子のヒナ 276 [迷子のヒナ]

「あっ!パーシー、ジャムとキスしてる!」

地下通路に好奇心いっぱいの甲高い声が響き渡った。

ジェームズはここ最近では覚えがないほど驚き、文字通り飛び上がった。おかげでパーシヴァルの歯が当たり、口の中を切ってしまった。

パーシヴァルはぽかんとしている。夢中のあまり、ヒナの声は耳に届かなかったようだ。

ジェームズはそっとパーシヴァルから離れ、じりじりとあとずさった。

いくら薄暗いとはいえ、こんな姿をヒナに見られるとは。髪は乱れ放題、唇も腫れている。ジェームズは頭を抱えるようにして髪を後ろに撫でつけると、とにかく落ち着こうと、ゆっくりと息を吐き出した。

どうやって誤魔化す?ヒナの位置からだと唇が重なっていたのは見えなかったはずだ。だとしたら、目のゴミを取っていたとでも言っておけばいい。もちろん、こんなに暗くては目のゴミはおろか、目の色さえはっきりとは分からないという事実に、ヒナが気付かないと仮定してだが。

「あれ、ヒナ?」やっとヒナの存在に気付いたパーシヴァル。「邪魔しないでくれたらよかったのに」と拗ねたように付け足す。

ジェームズは目を剥いた。パーシヴァルはたった今、迂闊にもキスをしていたことを認めてしまった。

「ごめんなさい……」と呟きながら、とことこと歩み寄ってくるヒナ。お気に入りの櫛を頭に差し、リンネルのシャツにふっくらとボリュームのある膝丈ズボンを穿いている。足元は室内履きのままで、クラブはおろか、地下通路に足を踏み入れることも禁止されているのに、当然のように反対側の出口を目指して突き進んでくる。

だが、この状況でヒナに対して強く出るのは、自分の首を絞めるようなものだ。なんとかしてお喋りなヒナの口を噤ませなければ、この後すぐにでもジャスティンにキスの報告がいってしまう。

「ヒナ、もしかしてクラブへ行く気じゃないだろうね?」パーシヴァルが尋ねる。

「ん?」と、とぼけた声で応じるヒナ。

「そう。まあいいけど、僕はもう部屋へ戻るよ。今夜はジャスティンにこっぴどく叱られたから、明日まではもう顔も見たくない」

「ジュス怒ってるの?」

「どうかな?捕まって、引きずられて、閉じ込められて、説教されたんだけど、やっぱり怒ってるからだよね」そう言ってパーシヴァルは肩を竦めた。

「あわわ……。じゃあ、ヒナも部屋に戻ろうかな。話したいことあったけど、明日でもいいかな」

「そうしよう。そうしよう」パーシヴァルはヒナの肩を抱き、屋敷に向けて歩き出した。ちらりと振り返り、ジェームズに向かって片目をつぶってみせる。

パーシヴァルのヒナの扱いの上手さに驚きながらも、ジェームズは二人のあとについて屋敷へと戻って行った。

つづく


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迷子のヒナ 277 [迷子のヒナ]

ヒナはひとり、寝室の大きなベッドに横たわっていた。

正しく表現するなら、石ころのように丸まって、上掛けをかぶって、ちょっとばかし拗ねていた。

地下通路で見てしまった、パーシヴァルとジェームズのキス。もちろん、二人がどんなふうに唇を重ねていたのかは見えなかったのだが、チュッチュという馴染のある音が石造りの壁や床で反響していて――しかも相当激しく――それで思わず、羨望もあらわに声をあげてしまったのだ。

ほんと……うらやましい。

ヒナは溜息を吐かずにはいられなかった。うらやましくて、さみしくて、うらやましい。

「ジュスのばか……」仕事なんて、明日も明後日も、ずっとずっとできるのに、夜くらい一緒にいてくれたらいいのに。眠ってからじゃ、遅いのにっ!

ヒナは手足をばたつかせ、上掛けを殴って蹴ってぐしゃぐしゃにすると、ベッドの上をゴロゴロ転がり、しまいにはベッドから落ちてしまった。

ふかふかの絨毯が敷いてあるとはいえ、よじ登るほどの高さのあるベッドから落ちれば、やはりそれなりに衝撃はある。ヒナは左の肩をしたたか打ちつけ、痛みに呻いた。うずくまったまま辛抱してみるのだが、我慢しきれず目の端に涙が滲んだ。

「うぅ……痛い」

よろよろとベッドへ這い上がろうとした時、逞しい腕がお腹にまわされ、ひょいとすくい上げられた。

「落ちたのか?」

「ジュスッ!」

ヒナはじたばたともがきジャスティンに抱きつこうとしたが、小脇に抱えられた荷物同然では顔を上げる事さえできなかった。

「ったく。ちょっと目を離すとこれだ。こんなに広いベッドから落ちるやつがあるか?」

ヒナはベッドに転がされ、ジャスティンが端に腰掛けた。すぐさま擦り寄り、背中に貼りつく。「ジュスがいたら、落ちなかったのに」

わずかシャツ一枚隔てた向こうで、ジャスティンの筋肉がぴくりと動いた。ヒナはすかさず頬擦りをして、それから清潔な香りを鼻いっぱいに吸い込んだ

「拗ねてるのか?今夜は早く戻ってきただろう?」ジャスティンは擽ったそうに身体を揺すった。

「お風呂も入った?」とヒナ。

「ああ、よく分かったな」

「いい匂いがする」

「同じ匂いだろ」ジャスティンはしがみつくヒナをいとも容易く振りほどき、ベッドに押し倒した。ニッと笑い、シャツと靴を脱ぎ捨て、ヒナの隣に横になった。

「ヒナも脱ぐ」ヒナは鼻息荒く起き上がり、寝間着をたくし上げた。

「ダメだ。風邪引く」ジャスティンは断固反対した。

ヒナは猛反発したが、ジャスティンに背中から抱きすくめられ、身動きが取れなくなってしまった。

ちぇっ。

男同士の裸の付き合いは大切だって、パーシーが言ってたのに……。

つづく


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迷子のヒナ 278 [迷子のヒナ]

時々、ヒナと寝室を同じにしたのは間違いだったのでは、と思うことがある。

特に、自制の努力もむなしく、ヒナがお尻を擦り付けたりしてきたときには。

「ヒナ、ごそごそせずに寝なさい」

「してないもんっ!寝ないもんっ!」

「子供みたいな事を言わない」

「子供じゃない、もん……。ヒナもキスしたい」

ヒナ、も?
ああ、そういうことか。

ジャスティンはヒナのうなじに口づけ、想像したくもない二人のキスシーンを振り払った。

ヒナの目につく場所でいちゃついたあの馬鹿どもの処遇は、明日考える事にしよう。口出しする気はないが、寛大になる気もなかった。

「そこじゃないよ」ヒナは何とかしてこちらを向こうと、腕の中でもがいている。

ジャスティンは手を緩め、ヒナの好きなようにさせた。どちらにせよ頑固なヒナは、キスをするまでは寝やしないのだから。

振り向いたヒナは興奮で顔を赤くしている。

いったいどんなキスを期待しているのやら。

「ヒナ、できればその忌々しい頭巾を脱いでくれると、気分も盛り上がるんだが」

ジャスティンはヒナの髪をすっぽりと覆うヘアキャップを掴んで、出来る限り遠くへ投げた。ふわりと舞ったそれは、ベッドの向こうへと消えた。

「あっ!ダンに怒られちゃうのに……」

「ダンは怒ったりしない」いったいダンの何が怖いのか、あんな窮屈なものをかぶって、よくも毎日我慢できるものだ。確かに髪をまとめたヒナは愛らしくもあるのだが、キスをするのさえ、どこか後ろめたい気持ちになってしまう。

心配そうにヘアキャップの行方を探るヒナの頬を両手で挟み釘付けにすると、望み通り口づけた。しっとり柔らかな唇は、ジャスティンの期待通りのものだった。ヒナはどうだろうか?不安と情熱がないまぜになり、気分が瞬く間に高揚する。

ヒナがもっと密着しようと身体を擦り付けてきた。頼りない身体つきではあるが、ある部分だけはしっかりと男だという事を主張している。そんなにぐいぐい押しつけられては、キス以上を求めていると勘違いしても文句は言えないからな。

ヒナを抱きたくてたまらない。

パーシヴァルさえいなければ、何のためらいもなくヒナを抱けるのに。血のつながりなどなんとも思わないが、それでもヒナはまだ子供同然で、いまやパーシヴァルはヒナの後継人でもあるのだ。

そんな男がひとつ屋根の下にいて、迂闊なことができるはずがない。どこまで我慢できるのかが問題ではあるが。

つづく


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迷子のヒナ 279 [迷子のヒナ]

もちろん、我慢の限界だった。

ヒナはジャスティンの腰に足を巻きつけ、誘惑するように裸の胸を撫でた。

ジャスティンは震える息を吐き、「誘っているのか?」と掠れた声で尋ねた。

もちろん!

ヒナは嬉々として答えたいのをなんとかこらえ、大きく息を吸った。

最近のジュスは、ヒナがベタベタするのを嫌がっているように感じる。

いっぱい我慢しているのに、これでまた誘惑に失敗したら、きっと泣いてしまう。

「誘ってない……もん」なんて説得力のない弱弱しい声かと、自分でもびっくりしてしまった。「ちょっと触っただけ」誤魔化しついでにジャスティンの乳首をきゅっとつねった。

「ヒッ!わ、ばか、ヒナそこはダメだって前に言っただろう」

ジャスティンは弱い部分を攻撃され、情けない声をあげた。

もっとも、ヒナにとってはすこぶる魅力的な声なのだが。

「じゃあ、こうしちゃうっ!」

ヒナはジャスティンの乳首を口に含み、思い切って強く吸った。ジャスティンは恥ずかしい声をたっぷり披露し、ヒナは得意げにほくそ笑んだ。

「ヒナ、どうなっても知らないぞ」

望むところだ、とヒナは鼻をふんふん言わせジャスティンの出方を待った。

ジャスティンはヒナの尻を掴んで自分に押し付けた。お互い昂っているのは明々白々。

先にそこに触れたのはジャスティン。

ヒナはハッと息を呑み「そこは勝手に触っちゃ駄目なのに」と囁き声を漏らした。

パーシーと入浴中、気になってそこに触れたら、勝手に触るもんじゃないとぴしゃりとはねのけられた。ヒナはそんなの知らなかったから、すごく驚いた。

「これは何かのゲームか、ヒナ?」ジャスティンは面白がるようにくすくす笑った。焦らされるのもお楽しみのひとつだと言わんばかりだ。

「ゲーム?違うよ……」ヒナは意味が分からず呟き返した。

「まあ、いい。ヒナ、ヒナのこれに触ってもいいか?」ジャスティンはヒナに許しを求めた。「すごく触れたいし、それに出来ればヒナにも触って欲しい」布越しにヒナの昂りを撫で、それからヒナの手を自身へと導いた。

「じゃあ、これ脱いでもいい?」ヒナは寝間着の胸元辺りをつまみ、おずおずと尋ねた。

無言の同意が交わされ、二人はいそいそと着ているすべてを脱ぎ捨てた。再び抱き合った時には、荒々しく口づけ、貪り、両手をお互いの肌の上で彷徨わせていた。

この二週間、なにを我慢していたのか、二人は堰を切ったように愛し合った。

つづく


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迷子のヒナ 280 [迷子のヒナ]

翌朝、従僕二人が目覚めの紅茶を手に寝室へ入って来たとき、ヒナはまだ眠っていた。

昨夜、おおいにはしゃいだとあって、昼近くまでは目覚めないだろう。

ジャスティンは静かに手を払って二人を追い出した。

ヒナの背中を抱き、複雑に絡み合った巻き毛をかき分け、やっと姿を見せたうなじに口づける。ヒナは眠ったまま、ほうっと嘆息し、昼寝中の猫のようにぎゅうっと丸まった。

弾力ある尻たぶが、ジャスティンの起き上がった一物を押し潰す。ジャスティンは呻き、腰をずらしてヒナの腿の間にそれを滑り込ませた。

腰を突き出し、ぴたりと身体を添わせる。それから腰を引き、秘められた場所に先端を押し付け、しばらく考え込んだ。

昨夜、ここには一度しか押し入らなかった。それはもう、夜明け近くだっただろうか?

二人は何日も飲まず食わずで旅をして来たかのように、お互いを貪った。やっと繋がった時には疲れ果てていたが、ジャスティンは時間をかけ、ヒナを極限まで昂らせ快感を余すことなく引き出したあとで、幾度となく絶頂へと導いた。

ぐったりとするヒナを強く抱き喜びに浸りながら、最後にジャスティンは、鋭い一突きで精を奥深くに放った。その余韻は長く果てしなく続くように思われた。

そんな事を考えているうちに、どうにも堪らず、ジャスティンはじわじわ押し広げるようにしてヒナのなかに入っていった。

一瞬侵入を拒むように押し戻されたが、かまわず腰を突き出した。

「あっ!」驚いたヒナが声をあげた。いったい何が起きたのか分からず、ジャスティンの腕の中から逃れようとする。爆発した髪の毛でジャスティンの顔面を叩き、何かを掴もうと手を伸ばしたところで、ようやく自分がベッドの上にいることに気付いたようだ。

「ヒナ、途中で寝ちゃった?」

ジャスティンは思わず微笑んだ。「おはよう、ヒナ」と耳元で囁くように言い、ヒナを無理やりこちらへ向かせると、唇を重ねた。

「おはよう」と言ったヒナだが、目はショボショボしていて今にも眠ってしまいそうだ。

ジャスティンはヒナの頭を元に戻すと、「目を閉じて、もうひと眠りするといいよ」と言った。

もちろん、いま始めたばかりの行為をやめるつもりはなかったが。

おかげで二人がベッドから抜け出したのは、午後、弁護士がさらなる重大な情報を持ってバーンズ邸にやって来たときだった。

つづく


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